福岡地方裁判所 平成4年(わ)513号 判決 1992年10月30日
本籍
福岡市博多区博多駅南二丁目一〇番
住居
広島市安佐南区緑井三丁目三五番八-八
飲食店従業員
梛野清美
昭和三一年七月一三日生
事件名
被告人に対する法人税法違反幇助被告事件
公判出席検察官
富松茂大
主文
被告人を懲役八月に処する。
この裁判の確定した日から三年間右刑の執行を猶予する。
訴訟費用は被告人の負担とする。
理由
(犯罪事実)
被告人は、エヌ・ケイ綜合開発株式会社の代表取締役を務めていたものであるが、不動産売買及び食料雑貨輸入販売等を目的とする榮信株式会社代表取締役喜多堅及び同会社常務取締役塚元健兒が共謀の上、同会社の業務に関し、同会社の法人税を免れようと企て、平成元年六月一日から同二年五月三一日までの事業年度における同会社の実際所得金額が一億二二五万三〇〇二円、課税土地譲渡利益金額が二億九九三四万六〇〇〇円であったのに、同会社の不動産売買を右エヌ・ケイ綜合開発株式会社の名義で行なって右榮信株式会社に売買利益が発生しなかったように仮装するなどの方法により、その所得を秘匿し、同二年七月三一日、福岡市中央区天神四丁目八番二八号所在の所轄福岡税務署において、同税務署長に対し、右榮新株式会社の右事業年度の実際所得金額が八六一〇万三一三九円の欠損で、課税土地譲渡利益金額が零であり、これに対する法人税額は零であり既に源泉徴収された所得税額三五五円の還付を受けることとなる旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額一億二九八二万四六〇〇円を免れるに際し、その情を知りながら、同元年三月三一日ころ、同区天神一丁目一〇番一七号西日本ビル八階所在のクボタハウス株式会社九州支店において、真実は西島シヅエほか六名から右榮信株式会社が購入する同市博多区博多駅東一丁目二三四番所在の土地建物に関し、買主を装って同不動産の売買契約書買主欄に右エヌ・ケイ綜合開発株式会社のゴム印及び代表者印を押捺して、売主を右西島シズエほか六名とし、買主を右エヌ・ケイ綜合開発株式会社とする内容虚偽の不動産売買契約書を作成するなどした上、同年六月二八日ころ、同区博多駅前一丁目五番一号朝日生命福岡ビル八階所在の総合住金株式会社福岡支店において、真実は右榮信株式会社が泰平物産株式会社に売却する右土地建物に関し、売主を装って同不動産の売買契約書売主欄に右エヌ・ケイ綜合開発株式会社のゴム印及び代表者印を押捺して、売主を同会社とし買主を右泰平物産株式会社とする内容虚偽の不動産売買契約書を作成するなどして、加功し、もって、右榮信株式会社の右犯行を容易ならしめてこれを幇助したものである。
(証拠)
1 被告人の公判供述
2 被告人の検察官調書(検乙二ないし四号)
3 塚元健兒(謄本、二通)、森岡実(謄本)、喜多堅(謄本、六通)、藤高豊(謄本、四通)、戸次誠一、清﨑明典、永岡茂昭の検察官調書
4 脱税額計算書謄本
5 脱税額計算説明資料謄本
6 査察官調査書謄本(二〇通)
7 査察官報告書
8 電話聴取書(二通)
9 登記簿謄本(二通)
(法令の適用)
罰条 刑法六二条一項、六〇条、法人税法一五九条一項
刑種の選択 懲役刑
法律上の軽減 刑法六三条、六八条三号
執行猶予 同法二五条一項
訴訟費用の負担 刑事訴訟法一八一条一項本文
(量刑の事情)
本件は、被告人が、第三者間の不動産取引における名義貸し等の行為が脱税の手段としてなされていることを知りながら、榮信株式会社の不動産取引による税金納付免脱の一助として、同社の不動産の購入及び売却に当たり、各売買契約の際、いずれも名義を貸すなどの所得隠匿工作を行なって、右榮信株式会社の法人税免脱を幇助したという事案である。
被告人は、最初、不動産取引等の知識もないままに、藤高に誘われてエヌ・ケイ綜合開発株式会社の代表取締役に就任し同人に指示されるままに行動していたものであるが、平成元年二月ころ、同人が榮信株式会社の塚元とエヌ・ケイ綜合開発の名義貸し及び虚偽申告等の脱税に関する交渉を繰り返した際、これに同席し、自らが右不動産取引に介在して名義貸しを行なうことを認識、理解した上、前記判示の行為に及んだことが認められ、被告人が本件脱税行為に対し必ずしも積極的とはいえないものの、違法と知りながらなお報酬を目的として犯行に加担した点は利己的であって、右経緯をもって酌量すべき事情とは認め難く、本件脱税の態様が、当該会社の法人税を免れるため、他の会社の名義を利用しあるいは別個に申告をさせるという巧妙、悪質なもので、これに加功し、五〇〇万円もの多額の報酬を得た被告人の刑責は決して軽いものではない。
しかしながら、被告人には、今回の事件を反省していること、これまで前科はなく、藤高と出会うまで善良な市民として社会生活を送っていること、その更正について雇主及び内妻の助力が期待できることなどの有利な事情も認められるので、以上の諸点を総合考慮の上、今回に限り社会内での自力更生の機会を与えることとし、懲役刑の執行を猶予した次第である。
(裁判長裁判官 仲家暢彦 裁判官 洞鷄敏夫 裁判官 足立正佳)